聖書通読チャレンジ記録

聖書通読チャレンジ感想文置き場(予定

ガラテヤの信徒への手紙 1章

兄弟たち、あなたがたにはっきり言います。わたしが告げ知らせた福音は、人によるものではありません。

わたしはこの福音を人から受けたのでも教えられたのでもなく、イエス・キリストの啓示によって知らされたのです。
‭‭ガラテヤの信徒への手紙‬ ‭1‬:‭11‬-‭12‬

 

そのころ、イエスガリラヤのナザレから来て、ヨルダン川ヨハネから洗礼を受けられた。

水の中から上がるとすぐ、天が裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった。

すると、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」という声が、天から聞こえた。
‭‭マルコによる福音書‬ ‭1‬:‭9‬-‭11‬

 

しばらくガラテヤへの手紙を読む。

 

先ずパウロは冒頭の挨拶部分で自らの使徒職が「人々からでもなく、人を通してでもなく、イエス・キリストと、キリストを死者の中から復活させた父である神とによって」*1与えられたと宣言する。

 

次に6-10節においてパウロは、キリストの福音という恵みから離れ、"別の福音"、つまりは「人が律法のお陰で義とされる」*2とする偽りの考えをガラテヤの信徒たちに吹き込む者たちを非常に強い調子で非難する。

 

パウロが告げ知らせる福音は人によるものではない。

 

使徒言行録第9章において、パウロキリスト教史のみならず人類史におそらく最も影響を与えた一個人の回心を経験する。

 

パウロはシリアのダマスコ付近で劇的な回心を経験し、ダマスコの街に入るとすぐに受洗し、また数日療養しただけですぐに福音宣教を始める。*3

 

そして「それから三年後、ケファと知り合いになろうとしてエルサレムに上り、十五日間彼のもとに滞在しましたが、 ほかの使徒にはだれにも会わず、ただ主の兄弟ヤコブにだけ」*4パウロは会う。

 

つまり偉大なる宣教者パウロ

ユダヤ教については学んではいたものの*5キリスト教については全くと言っていいほど学んでおらず

・復活前のキリストが直接選んだ他の使徒たちと異なり、キリストとの人間的な繋がりは無く

・それどころか、キリストから教えを学んだ他の使徒たちに会った経験すらほぼ無く、出会った期間も体系的に教えを学ぶにはあまりに短期間であり

・熱心にキリスト教の教会を迫害した過去を持ち*6

・宣教者、使徒でありながら自らの労働で自活する、いわば兼業の宗教家であり*7

使徒であるにも関わらず、肉体的な欠陥、おそらくは視力障害を抱えていた。*8*9

 

これらは一つ一つならばともかくとして、全てが組み合わさったならばおよそ"使徒"らしくない。

 

が、パウロが偉大な宣教者にして使徒であること。

彼に聖霊が働き、彼という器を通じて神が偉大な業を行ったことを私たちは知っている。

 

*1:‭‭ガラテヤの信徒への手紙‬ ‭1‬:‭1‬

*2:ガラテヤの信徒への手紙‬ ‭2‬:‭21‬

*3:たちまち目からうろこのようなものが落ち、サウロは元どおり見えるようになった。

そこで、身を起こして洗礼を受け、 食事をして元気を取り戻した。

サウロは数日の間、ダマスコの弟子たちと一緒にいて、 すぐあちこちの会堂で、「この人こそ神の子である」と、イエスのことを宣べ伝えた。
‭‭使徒言行録‬ ‭9‬:‭18‬-‭20‬

*4:ガラテヤの信徒への手紙‬ ‭1‬:‭18‬-‭19‬

*5:「「わたしは、キリキア州のタルソスで生まれたユダヤ人です。

そして、この都で育ち、ガマリエルのもとで先祖の律法について厳しい教育を受け、今日の皆さんと同じように、熱心に神に仕えていました。」
‭‭使徒言行録‬ ‭22‬:‭3‬

*6:あなたがたは、わたしがかつてユダヤ教徒としてどのようにふるまっていたかを聞いています。

わたしは、徹底的に神の教会を迫害し、滅ぼそうとしていました。
‭‭ガラテヤの信徒への手紙‬ ‭1‬:‭13‬

*7:主は、福音を宣べ伝える人たちには福音によって生活の資を得るようにと、指示されました。

しかし、わたしはこの権利を何一つ利用したことはありません。
‭‭コリントの信徒への手紙一‬ ‭9‬:‭14‬-‭15‬

*8:知ってのとおり、この前わたしは、体が弱くなったことがきっかけで、あなたがたに福音を告げ知らせました。

そして、わたしの身には、あなたがたにとって試練ともなるようなことがあったのに、さげすんだり、忌み嫌ったりせず、かえって、わたしを神の使いであるかのように、また、キリスト・イエスででもあるかのように、受け入れてくれました。

あなたがたが味わっていた幸福は、いったいどこへ行ってしまったのか。あなたがたのために証言しますが、あなたがたは、できることなら、自分の目をえぐり出してもわたしに与えようとしたのです。
‭‭ガラテヤの信徒への手紙‬ ‭4‬:‭13‬-‭15‬

*9:このとおり、わたしは今こんなに大きな字で、自分の手であなたがたに書いています。
‭‭ガラテヤの信徒への手紙‬ ‭6‬:‭11‬

サムエル記上 31章

彼らはサウルの首を切り落とし、武具を奪った。ペリシテ全土に使者が送られ、彼らの偶像の神殿と民に戦勝が伝えられた。

彼らはサウルの武具をアシュトレト神殿に納め、その遺体をベト・シャンの城壁にさらした。
‭‭サムエル記上‬ ‭31‬:‭9‬-‭10‬

 

「まだ一人、愛する息子がいた。

『わたしの息子なら敬ってくれるだろう』と言って、最後に息子を送った。

農夫たちは話し合った。『これは跡取りだ。さあ、殺してしまおう。そうすれば、相続財産は我々のものになる。』

そして、息子を捕まえて殺し、ぶどう園の外にほうり出してしまった。

さて、このぶどう園の主人は、どうするだろうか。戻って来て農夫たちを殺し、ぶどう園をほかの人たちに与えるにちがいない。」
‭‭マルコによる福音書‬ ‭12‬:‭6‬-‭9‬

 

サムエル記上の最終章。

ペリシテ人と戦うための王という神の器に選ばれたサウル王は、*1神の沈黙に耐えきれず、逆境の中で主に尋ね求めるのではなく、逆に霊媒師に頼る。*2

 

彼の罪は主の目に大きく、サウル王はその罪の故に死ぬことになる。*3

 

サウル王という器は壊されたが、*4もう一つの器、ダビデはどうだったか。

 

ダビデもある意味神の沈黙の中に居た。

疑心暗鬼に陥ったサウル王から逃れるため、祖国イスラエルを裏切り、敵方のペリシテ王の家臣となったダビデは、領地を守れず、自分自身や兵士たちの家族を誘拐される。

 

進退極まったダビデだが、彼はその時に「その神、主によって力を奮い起こした。」*5

 

これにより、ダビデの放浪物語冒頭にて示された二つの象徴により、彼は古代イスラエルの正式な王となる。

 

祭司しか食べることが許されていない聖別されたパンと、*6ペリシテ人の巨人ゴリアテの剣*7を祭司アヒメレクから受け取った彼は、この二つの力により古代イスラエルの聖なる王となる。

*1:「「明日の今ごろ、わたしは一人の男をベニヤミンの地からあなたのもとに遣わす。

あなたは彼に油を注ぎ、わたしの民イスラエルの指導者とせよ。

この男がわたしの民をペリシテ人の手から救う。民の叫び声はわたしに届いたので、わたしは民を顧みる。」

サムエルがサウルに会うと、主は彼に告げられた。

「わたしがあなたに言ったのはこの男のことだ。この男がわたしの民を支配する。」
‭‭サムエル記上‬ ‭9‬:‭16‬-‭17‬

*2:サウルは主に託宣を求めたが、主は夢によっても、ウリムによっても、預言者によってもお答えにならなかった。

サウルは家臣に命令した。

「口寄せのできる女を探してくれ。その女のところに行って尋ねよう。」
‭‭サムエル記上‬ ‭28‬:‭6‬-‭7‬

*3:サウルは、主に背いた罪のため、主の言葉を守らず、かえって口寄せに伺いを立てたために死んだ。

彼は主に尋ねようとしなかったために、主は彼を殺し、王位をエッサイの子ダビデに渡された。
‭‭歴代誌上‬ ‭10‬:‭13‬-‭14‬

*4:「立って、陶工の家に下って行け。そこでわたしの言葉をあなたに聞かせよう。」

わたしは陶工の家に下って行った。彼はろくろを使って仕事をしていた。

陶工は粘土で一つの器を作っても、気に入らなければ自分の手で壊し、それを作り直すのであった。

そのとき主の言葉がわたしに臨んだ。

イスラエルの家よ、この陶工がしたように、わたしもお前たちに対してなしえないと言うのか、と主は言われる。

見よ、粘土が陶工の手の中にあるように、イスラエルの家よ、お前たちはわたしの手の中にある。」
‭‭エレミヤ書‬ ‭18‬:‭2‬-‭6‬

*5:‭‭サムエル記上‬ ‭30‬:‭6‬

*6:普通のパンがなかったので、祭司は聖別されたパンをダビデに与えた。

パンを供え替える日で、焼きたてのパンに替えて主の御前から取り下げた、供えのパンしかなかった。
‭‭サムエル記上‬ ‭21‬:‭7‬

*7:祭司は言った。

「エラの谷で、あなたが討ち取ったペリシテ人ゴリアトの剣なら、そこ、エフォドの後ろに布に包んであります。

もしそれを持って行きたければ持って行ってください。そのほかには何もありません。」

ダビデは言った。「それにまさるものはない。それをください。」
‭‭サムエル記上‬ ‭21‬:‭10‬

サムエル記上 30章

ダビデとその兵が町に戻ってみると、町は焼け落ち、妻や息子、娘たちは連れ去られていた。

ダビデも彼と共にいた兵士も、声をあげて泣き、ついには泣く力もなくなった。

ダビデの二人の妻、イズレエルのアヒノアムとカルメルのナバルの妻であったアビガイルも連れ去られていた。

兵士は皆、息子、娘のことで悩み、ダビデを石で打ち殺そうと言い出したので、ダビデは苦しんだ。

だが、ダビデはその神、主によって力を奮い起こした。
‭‭サムエル記上‬ ‭30‬:‭3‬-‭6‬

 

わたしの名のために、家、兄弟、姉妹、父、母、子供、畑を捨てた者は皆、その百倍もの報いを受け、永遠の命を受け継ぐ。
しかし、先にいる多くの者が後になり、後にいる多くの者が先になる。

マタイによる福音書 19:29-30

 

本章はダビデの放浪物語のある意味でクライマックスである。

 

元々貧しい羊飼いであったダビデは、ペリシテ人の巨人ゴリアテを倒しイスラエル王サウルの家臣となり*1イスラエル国の戦士の長となる。*2

 

が、サウル王の疑心暗鬼により謀叛を疑われたダビデは自らの命を救うために長い放浪の旅に出る。*3

 

放浪の旅の中、ダビデの元にはならず者たちが集い、ダビデは彼らの頭領となる。*4

 

また旅の中でダビデは妻を得る。*5

 

そしてダビデは大きな決断をする。

祖国イスラエルの敵であるペリシテの王、アキシュに寝返るのである。*6

 

自分の命を救うためにペリシテに寝返ったダビデは、郎党たちとともに第二の故郷ともいえるツィクラグの街を得、一年四ヶ月もの間そこに家族ともども住み、元敵国であるペリシテに仕え続ける。*7

 

放浪の旅の中、安息を得たとも言えるダビデだが、彼はまた決断を迫られる。

 

イスラエル王サウルが率いる軍勢と、ペリシテ連合軍との戦いが来てしまったのだ。

 

ペリシテ王アキシュへの忠誠心を示すため、かつての主君であったサウル王との戦いを望むダビデだったが、ペリシテ人たちからすればダビデは元イスラエル人であり余所者でしかない。

 

ダビデ

「わたしが何をしたとおっしゃるのですか。あなたに仕えた日から今日までに、どのような間違いが僕にあって、わが主君、王の敵と戦うために出てはならないというのでしょう。」*8

 

とまでアキシュ王に述べ、かつての主君、サウルとの戦いを望むが、裏切りを恐れた他のペリシテ武将たちにより参戦を拒否される。

 

武勲を立てる機会を失ったダビデが根拠地の街ツィクラグへ帰ると、そこはアマレク人たちの略奪隊により焼かれ、兵士たちの家族は奴隷として連れ去られていた。

 

ダビデは窮地に陥る。

彼自身の妻も囚われていたが、仲間の家族もそれは同様である。

 

自分たちの街や家族を守れなかったリーダー、ダビデに対し仲間たちは厳しく、石で打ち殺そうとまで言い出す。

 

ダビデはかつて様々なものを持っていた。

 

イスラエル王サウルの家臣であるダビデイスラエル軍の戦士の長であるダビデ、郎党の頭領であるダビデ、妻の夫であるダビデ、ツィクラグの街の領主であるダビデ、ペリシテ王アキシュの家臣であるダビデ

 

その全てを失った時「ダビデは苦しんだ。

だが、ダビデはその神、主によって力を奮い起こした。」*9のである。

*1:サムエル記上17章

*2:ダビデは、サウルが派遣するたびに出陣して勝利を収めた。

サウルは彼を戦士の長に任命した。

このことは、すべての兵士にも、サウルの家臣にも喜ばれた。
‭‭サムエル記上‬ ‭18‬:‭5‬

*3:サムエル記上20章

*4:また、困窮している者、負債のある者、不満を持つ者も皆彼のもとに集まり、ダビデは彼らの頭領になった。

四百人ほどの者が彼の周りにいた。
‭‭サムエル記上‬ ‭22‬:‭2‬

*5:サムエル記上25章

*6:ダビデは心に思った。

「このままではいつかサウルの手にかかるにちがいない。ペリシテの地に逃れるほかはない。

そうすればサウルは、イスラエル全域でわたしを捜すことを断念するだろう。

こうしてわたしは彼の手から逃れることができる。」
‭‭サムエル記上‬ ‭27‬:‭1‬

*7:その日、アキシュは彼にツィクラグを与えた。

こうして、今日に至るまでツィクラグはユダの王に属することになった。

ダビデがペリシテの地に住んだ期間は、一年と四か月であった。
‭‭サムエル記上‬ ‭27‬:‭6‬-‭7‬

*8:サムエル記上‬ ‭29‬:‭8‬

*9:サムエル記上30:6

サムエル記上 29章

「今は、平和に帰ってほしい。ペリシテの武将たちの好まないことをしてはならない。」

ダビデはアキシュに言った。

「わたしが何をしたとおっしゃるのですか。あなたに仕えた日から今日までに、どのような間違いが僕にあって、わが主君、王の敵と戦うために出てはならないというのでしょう。」
‭‭サムエル記上‬ ‭29:7-8‬

 

そのとき、ある律法学者が近づいて、「先生、あなたがおいでになる所なら、どこへでも従って参ります」と言った。

エスは言われた。

「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。

だが、人の子には枕する所もない。」
‭‭マタイによる福音書‬ ‭8:19-20‬

 

ダビデはそれがたとえサウル王の疑心暗鬼の故とはいえ主君を裏切ったが、本章において祖国イスラエルも裏切る。

 

彼はいわば難民として、イスラエルの敵であるペリシテに亡命し、ペリシテ王アキシュの家臣となった。

 

決してその場の気の迷いとはいえない一、二年の期間敵国の王に仕えたダビデは、*1本章において忠誠を誓う新しい祖国ペリシテの敵、かつての祖国イスラエルと戦えないことを嘆く。

 

それまでの彼は祖国イスラエルの民を襲撃しているフリをしつつ異民族と戦っていたが、*2本章においてダビデは元イスラエル人だからとの理由でサウル王が率いるイスラエル軍と戦えないことを不当であると訴える。

 

サウル王によって命を狙われ祖国イスラエルで余所者となったダビデは、移民先であるペリシテでも余所者として扱われる。

 

が、ダビデにはまだ「枕する」所、彼と同じように祖国イスラエルを裏切りペリシテに移住し、アキシュ王の家臣となった仲間たちが居る。

 

ダビデが本当に枕するところもなくなる、彼が本当にこの世のどこにも居場所が無くなるのは次章においてである。

*1:ダビデはアキシュに言った。

「御厚意を得られるなら、地方の町の一つに場所をください。そこに住みます。

僕が王国の首都で、あなたのもとに住むことはありません。」

その日、アキシュは彼にツィクラグを与えた。こうして、今日に至るまでツィクラグはユダの王に属することになった。

ダビデがペリシテの地に住んだ期間は、一年と四か月であった。
‭‭サムエル記上‬ ‭27:5-7‬

*2:ダビデとその兵は上って行っては、ゲシュル人、ゲゼル人、アマレク人を襲った。

昔からこれらは、シュルからエジプトの地に至る地方の住民であった。

ダビデはこの地方を討つと、男も女も生かしておかず、羊、牛、ろば、らくだ、衣類を奪っては、アキシュのもとに戻った。

アキシュが、「今日はどこを襲ったか」と尋ねると、ダビデは、ユダのネゲブを、エラフメエル人のネゲブを、カイン人のネゲブを、と答えた。
‭‭サムエル記上‬ ‭27:8-10‬

サムエル記上 28章

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サウルはペリシテの陣営を見て恐れ、その心はひどくおののいた。

サウルは主に託宣を求めたが、主は夢によっても、ウリムによっても、預言者によってもお答えにならなかった。
‭‭サムエル記上‬ ‭28:5-6‬

 

これを聞いたピラトは、この人はガリラヤ人かと尋ね、 ヘロデの支配下にあることを知ると、イエスをヘロデのもとに送った。

ヘロデも当時、エルサレムに滞在していたのである。

彼はイエスを見ると、非常に喜んだ。というのは、イエスのうわさを聞いて、ずっと以前から会いたいと思っていたし、イエスが何かしるしを行うのを見たいと望んでいたからである。

それで、いろいろと尋問したが、イエスは何もお答えにならなかった。
‭‭ルカによる福音書‬ ‭23:6-9‬

 

本章でサムエル記上における主要人物二人、サウル王とダビデは二人とも罪の只中にある。

 

ダビデは自らの命を救おうとイスラエルの敵であるペリシテ王アキシュの家臣となり、それだけではなく、イスラエルとの戦いに参加するとまで宣言する。

 

場面は変わり、もう一方の登場人物であるサウル王へと焦点が移る。

 

サウル王はペリシテ軍と対峙している。

イスラエル全軍を率いているサウルだが、敵であるペリシテ軍は非常に強く見え、彼の心は酷くおののく。

 

サウルは怯え、祈るが神の答えは沈黙である。

預言者も、大祭司が託宣に用いるウリルも、そして夢も神の言葉をサウルに伝えない。*1

 

サウルは祈るが、それは神に立ち返らない祈り、神ではなく神の力を自分のために使おうとする祈りではないか。

 

丁度、ペリシテ軍に手酷い敗戦をしたイスラエルの長老たちが、契約の櫃さえ陣中にあれば、神の力によって敵に勝てると誤ったように。*2

 

サウル王は神の沈黙に耐え切れず、霊媒師に頼る。

神に立ち返らず、まじないに縋る。*3

 

神は見せ物として奇跡を起こすわけではないし、取り引きとして願いを聞き入れるわけでもない。

 

本章においてサウル王に主は沈黙したままである。

丁度、キリストがヘロデ王に対して沈黙したままであったように。

*1:主よ、苦難に襲われると 人々はあなたを求めます。

あなたの懲らしめが彼らに臨むと 彼らはまじないを唱えます。
‭‭イザヤ書‬ ‭26:16‬

*2:兵士たちが陣営に戻ると、イスラエルの長老たちは言った。

「なぜ主は今日、我々がペリシテ軍によって打ち負かされるままにされたのか。

主の契約の箱をシロから我々のもとに運んで来よう。そうすれば、主が我々のただ中に来て、敵の手から救ってくださるだろう。」
‭‭サムエル記上‬ ‭4:3‬

*3:主の手が短くて救えないのではない。

主の耳が鈍くて聞こえないのでもない。

むしろお前たちの悪が 神とお前たちとの間を隔て

お前たちの罪が神の御顔を隠させ

お前たちに耳を傾けられるのを妨げているのだ。
‭‭イザヤ書‬ ‭59:1-2‬

サムエル記上 27章

ダビデは心に思った。

「このままではいつかサウルの手にかかるにちがいない。

ペリシテの地に逃れるほかはない。そうすればサウルは、イスラエル全域でわたしを捜すことを断念するだろう。

こうしてわたしは彼の手から逃れることができる。」
‭‭サムエル記上‬ ‭27:1

 

占星術の学者たちが帰って行くと、主の天使が夢でヨセフに現れて言った。

「起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。

ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている。」

ヨセフは起きて、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、 ヘロデが死ぬまでそこにいた。

それは、「わたしは、エジプトからわたしの子を呼び出した」と、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。
‭‭マタイによる福音書‬ ‭2:13-15‬

 

サウル王から逃れる旅を続けるダビデは本章で帰還前の最後の放浪先、ペリシテ人の地にたどり着く。

 

ダビデは本章で、異邦人であり異教徒の偶像崇拝者にしてイスラエルの敵の家臣となる。*1

 

異邦人の地に旅立ち、そこから帰る物語は聖書によく出てくる。

 

創世記においてはヨセフが兄弟たちに殺されかけた上に奴隷としてエジプトへ売られ、*2出エジプト記においてはモーセが同胞を救おうと犯した殺人の罪から逃れるためにエジプトからミディアンへと旅立ち、*3エステル記ではエステルが被差別民族のユダヤ人であり、かつ元孤児であったにも関わらずペルシアの王に見初められる。*4

 

この人々は"旅"の中で変化をする。

 

創世記のヨセフはファラオの夢を解き明かし宮廷の責任者となり、*5モーセは燃える芝で主と出会いファラオの元からイスラエルを導き出すために遣わされ、*6信仰と出自さえ隠しておけば王の寵愛を受けている自分はユダヤ人絶滅政策から無事で居られると考えていたエステルの内面を変える。*7

 

自らの命を守るため敵であるペリシテ人の王の家臣となったダビデにも変化が訪ずれることになる。*8

 

新約聖書にも旅と帰還の物語はある。

 

マタイ書におけるイエスの誕生物語はまさにそれであるが、ヘロデ王から逃れるためにエジプトへと逃げ、そして帰還する*9幼子イエスは変化しない。

 

変わるのは環境であり、キリストではない。

神は変化しないからである。*10

*1:ダビデはアキシュに言った。

「御厚意を得られるなら、地方の町の一つに場所をください。そこに住みます。

僕が王国の首都で、あなたのもとに住むことはありません。」

その日、アキシュは彼にツィクラグを与えた。こうして、今日に至るまでツィクラグはユダの王に属することになった。

ダビデがペリシテの地に住んだ期間は、一年と四か月であった。
‭‭サムエル記上‬ ‭27:5-7‬

*2:ヨセフはエジプトに連れて来られた。

ヨセフをエジプトへ連れて来たイシュマエル人の手から彼を買い取ったのは、ファラオの宮廷の役人で、侍従長エジプト人ポティファルであった。

主がヨセフと共におられたので、彼はうまく事を運んだ。彼はエジプト人の主人の家にいた。
‭‭創世記‬ ‭39:1-2‬

*3:「誰がお前を我々の監督や裁判官にしたのか。

お前はあのエジプト人を殺したように、このわたしを殺すつもりか」と言い返したので、モーセは恐れ、さてはあの事が知れたのかと思った。

ファラオはこの事を聞き、モーセを殺そうと尋ね求めたが、モーセはファラオの手を逃れてミディアン地方にたどりつき、とある井戸の傍らに腰を下ろした。
‭‭出エジプト記‬ ‭2:14-15‬

*4:彼はエステルに好意を抱き、目をかけた。

早速化粧品と食べ物を与え、王宮からえり抜きの女官七人を彼女にあてがい、彼女を女官たちと共に後宮で特別扱いした。

エステルは、モルデカイに命じられていたので、自分が属する民族と親元を明かさなかった。
‭‭エステル記‬ ‭2:9-10‬

*5:ヨセフの方を向いてファラオは言った。

「神がそういうことをみな示されたからには、お前ほど聡明で知恵のある者は、ほかにはいないであろう。

お前をわが宮廷の責任者とする。わが国民は皆、お前の命に従うであろう。

ただ王位にあるということでだけ、わたしはお前の上に立つ。」
‭‭創世記‬ ‭41:39-40‬

*6:‬「今、行きなさい。わたしはあなたをファラオのもとに遣わす。

わが民イスラエルの人々をエジプトから連れ出すのだ。」
‭‭出エジプト記‬ ‭3:10‬

*7:「早速、スサにいるすべてのユダヤ人を集め、私のために三日三晩断食し、飲食を一切断ってください。

私も女官たちと共に、同じように断食いたします。

このようにしてから、定めに反することではありますが、私は王のもとに参ります。

このために死ななければならないのでしたら、死ぬ覚悟でおります。」
‭‭エステル記‬ ‭4:16‬

*8:サムエル記上30章

*9:そこで、ヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ帰って来た。

しかし、アルケラオが父ヘロデの跡を継いでユダヤを支配していると聞き、そこに行くことを恐れた。

ところが、夢でお告げがあったので、ガリラヤ地方に引きこもり、 ナザレという町に行って住んだ。

「彼はナザレの人と呼ばれる」と、預言者たちを通して言われていたことが実現するためであった。
‭‭マタイによる福音書‬ ‭2:21-23‬

*10:「わたしは、行うようにとあなたが与えてくださった業を成し遂げて、地上であなたの栄光を現しました。

父よ、今、御前でわたしに栄光を与えてください。

世界が造られる前に、わたしがみもとで持っていたあの栄光を。」
‭‭ヨハネによる福音書‬ ‭17:4-5‬

サムエル記上 26章

ダビデはアビシャイに言った。

「殺してはならない。主が油を注がれた方に手をかければ、罰を受けずには済まない。」

更に言った。

「主は生きておられる。主がサウルを打たれるだろう。時が来て死ぬか、戦に出て殺されるかだ。

主が油を注がれた方に、わたしが手をかけることを主は決してお許しにならない。

今は、枕もとの槍と水差しを取って立ち去ろう。」
‭‭サムエル記上‬ ‭26:9-11‬

 

「人々に憎まれるとき、また、人の子のために追い出され、ののしられ、汚名を着せられるとき、あなたがたは幸いである。

その日には、喜び踊りなさい。

天には大きな報いがある。この人々の先祖も、預言者たちに同じことをしたのである。

しかし、富んでいるあなたがたは、不幸である、 あなたがたはもう慰めを受けている。

今満腹している人々、あなたがたは、不幸である、 あなたがたは飢えるようになる。

今笑っている人々は、不幸である、 あなたがたは悲しみ泣くようになる。

すべての人にほめられるとき、あなたがたは不幸である。この人々の先祖も、偽預言者たちに同じことをしたのである。」
‭‭ルカによる福音書‬ ‭6:22-26‬

 

前々章より続く敵とわたしの関係性、復讐、あるいは赦しに関するエピソードの並行箇所。

 

人と人の間にいる神、ダビデヨナタンの友情に居る神は、*1敵となってしまったサウル王とダビデの間にも存在する。*2

 

本章においてダビデは、たとえサウル王が「時が来て死ぬ」*3としても「主がサウルを打たれる」と語る。*4

 

この考えはルカによる福音書の"金持ちとラザロ"のたとえを想起させる。*5

*1:ヨナタンは言った。

「安らかに行ってくれ。わたしとあなたの間にも、わたしの子孫とあなたの子孫の間にも、主がとこしえにおられる、と主の御名によって誓い合ったのだから。」
‭‭サムエル記上‬ ‭20:42‬

*2:「主があなたとわたしの間を裁き、わたしのために主があなたに報復されますように。

わたしは手を下しはしません。」
‭‭サムエル記上‬ ‭24:13‬

*3:サムエル記上‬ ‭26:10‬

*4:貧しい人は地を継ぎ 豊かな平和に自らをゆだねるであろう。

主に従う人に向かって 主に逆らう者はたくらみ、牙をむくが 主は彼を笑われる。

彼に定めの日が来るのを見ておられるから。

主に逆らう者は剣を抜き、弓を引き絞り 貧しい人、乏しい人を倒そうとし まっすぐに歩む人を屠ろうとするが

その剣はかえって自分の胸を貫き 弓は折れるであろう。

主に従う人が持っている物は僅かでも 主に逆らう者、権力ある者の富にまさる。」
‭‭詩編‬ ‭37:11-16‬

*5:「ある金持ちがいた。いつも紫の衣や柔らかい麻布を着て、毎日ぜいたくに遊び暮らしていた。

この金持ちの門前に、ラザロというできものだらけの貧しい人が横たわり、 その食卓から落ちる物で腹を満たしたいものだと思っていた。犬もやって来ては、そのできものをなめた。

やがて、この貧しい人は死んで、天使たちによって宴席にいるアブラハムのすぐそばに連れて行かれた。

金持ちも死んで葬られた。

そして、金持ちは陰府でさいなまれながら目を上げると、宴席でアブラハムとそのすぐそばにいるラザロとが、はるかかなたに見えた。」
‭‭ルカによる福音書‬ ‭16:19-23‬