「今は、平和に帰ってほしい。ペリシテの武将たちの好まないことをしてはならない。」
ダビデはアキシュに言った。
「わたしが何をしたとおっしゃるのですか。あなたに仕えた日から今日までに、どのような間違いが僕にあって、わが主君、王の敵と戦うために出てはならないというのでしょう。」
サムエル記上 29:7-8
そのとき、ある律法学者が近づいて、「先生、あなたがおいでになる所なら、どこへでも従って参ります」と言った。
イエスは言われた。
「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。
だが、人の子には枕する所もない。」
マタイによる福音書 8:19-20
ダビデはそれがたとえサウル王の疑心暗鬼の故とはいえ主君を裏切ったが、本章において祖国イスラエルも裏切る。
彼はいわば難民として、イスラエルの敵であるペリシテに亡命し、ペリシテ王アキシュの家臣となった。
決してその場の気の迷いとはいえない一、二年の期間敵国の王に仕えたダビデは、*1本章において忠誠を誓う新しい祖国ペリシテの敵、かつての祖国イスラエルと戦えないことを嘆く。
それまでの彼は祖国イスラエルの民を襲撃しているフリをしつつ異民族と戦っていたが、*2本章においてダビデは元イスラエル人だからとの理由でサウル王が率いるイスラエル軍と戦えないことを不当であると訴える。
サウル王によって命を狙われ祖国イスラエルで余所者となったダビデは、移民先であるペリシテでも余所者として扱われる。
が、ダビデにはまだ「枕する」所、彼と同じように祖国イスラエルを裏切りペリシテに移住し、アキシュ王の家臣となった仲間たちが居る。
ダビデが本当に枕するところもなくなる、彼が本当にこの世のどこにも居場所が無くなるのは次章においてである。
「御厚意を得られるなら、地方の町の一つに場所をください。そこに住みます。
僕が王国の首都で、あなたのもとに住むことはありません。」
その日、アキシュは彼にツィクラグを与えた。こうして、今日に至るまでツィクラグはユダの王に属することになった。
ダビデがペリシテの地に住んだ期間は、一年と四か月であった。
サムエル記上 27:5-7
*2:ダビデとその兵は上って行っては、ゲシュル人、ゲゼル人、アマレク人を襲った。
昔からこれらは、シュルからエジプトの地に至る地方の住民であった。
ダビデはこの地方を討つと、男も女も生かしておかず、羊、牛、ろば、らくだ、衣類を奪っては、アキシュのもとに戻った。
アキシュが、「今日はどこを襲ったか」と尋ねると、ダビデは、ユダのネゲブを、エラフメエル人のネゲブを、カイン人のネゲブを、と答えた。
サムエル記上 27:8-10