ダビデは心に思った。
「このままではいつかサウルの手にかかるにちがいない。
ペリシテの地に逃れるほかはない。そうすればサウルは、イスラエル全域でわたしを捜すことを断念するだろう。
こうしてわたしは彼の手から逃れることができる。」
サムエル記上 27:1
占星術の学者たちが帰って行くと、主の天使が夢でヨセフに現れて言った。
「起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。
ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている。」
ヨセフは起きて、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、 ヘロデが死ぬまでそこにいた。
それは、「わたしは、エジプトからわたしの子を呼び出した」と、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。
マタイによる福音書 2:13-15
サウル王から逃れる旅を続けるダビデは本章で帰還前の最後の放浪先、ペリシテ人の地にたどり着く。
ダビデは本章で、異邦人であり異教徒の偶像崇拝者にしてイスラエルの敵の家臣となる。*1
異邦人の地に旅立ち、そこから帰る物語は聖書によく出てくる。
創世記においてはヨセフが兄弟たちに殺されかけた上に奴隷としてエジプトへ売られ、*2出エジプト記においてはモーセが同胞を救おうと犯した殺人の罪から逃れるためにエジプトからミディアンへと旅立ち、*3エステル記ではエステルが被差別民族のユダヤ人であり、かつ元孤児であったにも関わらずペルシアの王に見初められる。*4
この人々は"旅"の中で変化をする。
創世記のヨセフはファラオの夢を解き明かし宮廷の責任者となり、*5モーセは燃える芝で主と出会いファラオの元からイスラエルを導き出すために遣わされ、*6信仰と出自さえ隠しておけば王の寵愛を受けている自分はユダヤ人絶滅政策から無事で居られると考えていたエステルの内面を変える。*7
自らの命を守るため敵であるペリシテ人の王の家臣となったダビデにも変化が訪ずれることになる。*8
新約聖書にも旅と帰還の物語はある。
マタイ書におけるイエスの誕生物語はまさにそれであるが、ヘロデ王から逃れるためにエジプトへと逃げ、そして帰還する*9幼子イエスは変化しない。
変わるのは環境であり、キリストではない。
神は変化しないからである。*10
「御厚意を得られるなら、地方の町の一つに場所をください。そこに住みます。
僕が王国の首都で、あなたのもとに住むことはありません。」
その日、アキシュは彼にツィクラグを与えた。こうして、今日に至るまでツィクラグはユダの王に属することになった。
ダビデがペリシテの地に住んだ期間は、一年と四か月であった。
サムエル記上 27:5-7
*2:ヨセフはエジプトに連れて来られた。
ヨセフをエジプトへ連れて来たイシュマエル人の手から彼を買い取ったのは、ファラオの宮廷の役人で、侍従長のエジプト人ポティファルであった。
主がヨセフと共におられたので、彼はうまく事を運んだ。彼はエジプト人の主人の家にいた。
創世記 39:1-2
*3:「誰がお前を我々の監督や裁判官にしたのか。
お前はあのエジプト人を殺したように、このわたしを殺すつもりか」と言い返したので、モーセは恐れ、さてはあの事が知れたのかと思った。
ファラオはこの事を聞き、モーセを殺そうと尋ね求めたが、モーセはファラオの手を逃れてミディアン地方にたどりつき、とある井戸の傍らに腰を下ろした。
出エジプト記 2:14-15
早速化粧品と食べ物を与え、王宮からえり抜きの女官七人を彼女にあてがい、彼女を女官たちと共に後宮で特別扱いした。
エステルは、モルデカイに命じられていたので、自分が属する民族と親元を明かさなかった。
エステル記 2:9-10
*5:ヨセフの方を向いてファラオは言った。
「神がそういうことをみな示されたからには、お前ほど聡明で知恵のある者は、ほかにはいないであろう。
お前をわが宮廷の責任者とする。わが国民は皆、お前の命に従うであろう。
ただ王位にあるということでだけ、わたしはお前の上に立つ。」
創世記 41:39-40
*6:「今、行きなさい。わたしはあなたをファラオのもとに遣わす。
わが民イスラエルの人々をエジプトから連れ出すのだ。」
出エジプト記 3:10
*7:「早速、スサにいるすべてのユダヤ人を集め、私のために三日三晩断食し、飲食を一切断ってください。
私も女官たちと共に、同じように断食いたします。
このようにしてから、定めに反することではありますが、私は王のもとに参ります。
このために死ななければならないのでしたら、死ぬ覚悟でおります。」
エステル記 4:16
*8:サムエル記上30章
*9:そこで、ヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ帰って来た。
しかし、アルケラオが父ヘロデの跡を継いでユダヤを支配していると聞き、そこに行くことを恐れた。
ところが、夢でお告げがあったので、ガリラヤ地方に引きこもり、 ナザレという町に行って住んだ。
「彼はナザレの人と呼ばれる」と、預言者たちを通して言われていたことが実現するためであった。
マタイによる福音書 2:21-23
*10:「わたしは、行うようにとあなたが与えてくださった業を成し遂げて、地上であなたの栄光を現しました。
父よ、今、御前でわたしに栄光を与えてください。