「自分の敵に出会い、その敵を無事に去らせる者があろうか。
今日のお前のふるまいに対して、主がお前に恵みをもって報いてくださるだろう。」
サムエル記上 24:20
「あなたがたも聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。
しかし、わたしは言っておく。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい。」
マタイによる福音書 5:38-39
狂ったイスラエル王サウル、彼は疑心暗鬼に陥り臣下だったダビデの命を奪おうと付け狙い続ける。
彼から逃げ続けるだけだったダビデに千載一遇のチャンスが訪れる。
ダビデと郎党たちが洞窟に身を潜めていると、そこにサウルが共の者もなく、一人でやって来たのだ。
しかも彼は全くこちらに気づいていない。
するつもりなど全くない謀反の疑い、しかも証拠すらない嫌疑で散々命を狙ってきた相手、憎んでも憎み足りないかつての主君にして敵の命が、今、ダビデの手の中にあるのだ。*1
ダビデの兵は言った。
「主があなたに、『わたしはあなたの敵をあなたの手に渡す。思いどおりにするがよい』と約束されたのは、この時のことです。」
しかしダビデは、サウルの上着の端を切ったことを後悔*2する。
ダビデはおそらくサウルを殺そうとしたのだろう。
思いとどまったダビデは、サウル王が洞窟を出た後に声をかける。
ダビデは嘆く。なぜ、主君であるあなたは謀反のうわさなどに耳を貸したのか。
なぜわたしの命をそれほどまでに奪おうとするのか。
その嘆きの中でダビデはこう言う。
「主があなたとわたしの間を裁き、わたしのために主があなたに報復されますように。
わたしは手を下しはしません。」*3
自らの手で敵であるサウルを簡単に殺せたが、ダビデは後一歩のところで踏みとどまり、主に対して敵であるサウルと自分の間を裁き、サウルに復讐して下さるよう祈る。*4*5
ダビデの嘆きは続き、それはこう締め括られる。
「主が裁き手となって、わたしとあなたの間を裁き、わたしの訴えを弁護し、あなたの手からわたしを救ってくださいますように。」*6
ダビデは命を狙い続ける敵に対する復讐を主に求めることではなく、悪から救い出してくださるよう主に祈る。*7*8
ダビデの嘆きを聞き終えたサウルは声を上げて泣き、彼の正しさを認めてこう言う。
「お前はわたしに善意を尽くしていたことを今日示してくれた。
主がわたしをお前の手に引き渡されたのに、お前はわたしを殺さなかった。
自分の敵に出会い、その敵を無事に去らせる者があろうか。
今日のお前のふるまいに対して、主がお前に恵みをもって報いてくださるだろう。」*9と。*10
*1:人を打ち殺した者はだれであっても、必ず死刑に処せられる。
家畜を打ち殺す者は、その償いをする。命には命をもって償う。
人に傷害を加えた者は、それと同一の傷害を受けねばならない。
骨折には骨折を、目には目を、歯には歯をもって人に与えたと同じ傷害を受けねばならない。
レビ記 24:17-20
*2:サムエル記上 24:5-6
*3:サムエル記上 24:13
*4:主よ、報復の神として 報復の神として顕現し
全地の裁き手として立ち上がり 誇る者を罰してください。
詩編 94:1-2
「『復讐はわたしのすること、わたしが報復する』と主は言われる」と書いてあります。
「あなたの敵が飢えていたら食べさせ、渇いていたら飲ませよ。そうすれば、燃える炭火を彼の頭に積むことになる。」
悪に負けることなく、善をもって悪に勝ちなさい。
ローマの信徒への手紙 12:19-21
*6:サムエル記上 24:16
*7:「わたしたちを誘惑に遭わせず、 悪い者から救ってください。」
マタイによる福音書 6:13
*8:「わたしがお願いするのは、彼らを世から取り去ることではなく、悪い者から守ってくださることです。
わたしが世に属していないように、彼らも世に属していないのです。」
ヨハネによる福音書 17:15-16
*9:サムエル記上 24:19-20
*10:復讐してはならない。
民の人々に恨みを抱いてはならない。
自分自身を愛するように隣人を愛しなさい。
わたしは主である。
レビ記 19:18